SOILーSHOP生物教材製作所 / 自習室

高校生物の予習&復習&自習

【31】ラクトースオペロン

ラクトース(乳糖)は、ラクトース分解酵素によって、グルコース(ブドウ糖)とガラクトースに分解される。ラクトースを母乳に含む哺乳類も、原核生物の乳酸菌や大腸菌も、ラクトース分解に関わる遺伝子を持っている。

f:id:soilshop:20200814185147j:plain

ラクトース=ガラクトース+グルコース

大腸菌にとっては、二糖類のラクトースより単糖類のグルコースの方が、すぐに呼吸に利用できる分『ありがたい』のかもしれない。培地にグルコースが有れば、ラクトースの有無にかかわらず、大腸菌は『とにかく!』グルコースを細胞内に取り込んで利用する。培地にグルコースが無くてラクトース(乳糖)しかないときだけ、大腸菌は『しかたなく?』ラクトースを細胞内に取り込んで分解し、グルコースを得る。

大腸菌にしてみれば、グルコースが無くてラクトースが有るときだけ、ラクトース分解に関わる遺伝子が発現すればよい。

f:id:soilshop:20200814185241j:plain

ラクトースオペロン

遺伝子が発現するには、RNAポリメラーゼが遺伝子の上流のプロモーター領域に結合しなければならない。RNAポリメラーゼとプロモーター領域の結合は、調節タンパク質”アクチベーター“が助ける一方、調節タンパク質”リプレッサー“によって邪魔される。

大腸菌の“ラクトースオペロン”では、”アクチベーター”(促進因子)は、グルコースが有るときは合成されず、グルコースが無いときに合成される。”リプレッサー”(抑制因子)は、ラクトースが有るときは、ラクトースの代謝産物(アロラクトース)と合体してオペレーター領域に結合しないが、ラクトースが無いときはオペレーター領域に結合してしまう。

f:id:soilshop:20200815101933g:plain

①グルコース無し&ラクトース有り(転写促進)

①グルコースが無くて(”アクチベーター”が結合して)、ラクトースが有る(”リプレッサー”が結合できない)ときだけ、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合して転写がはじまる。

f:id:soilshop:20200815102041g:plain

②グルコース有り&ラクトース有り(転写抑制)

②グルコースが有れば(”アクチベーター”が結合しなければ)、ラクトースが有っても(”リプレッサー”が結合していなくても)、RNAポリメラーゼはプロモーターに結合できず、転写がはじまらない。

f:id:soilshop:20200815102243g:plain

③グルコース無し&ラクトース無し(転写抑制)

③グルコースが無くても(”アクチベーター”が結合しても)、ラクトースが無ければ(”リプレッサー”が結合していれば)、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合できずに、転写がはじまらない。

f:id:soilshop:20200815102408g:plain

④グルコース有り&ラクトース無し(転写抑制)

④グルコースが有り(”アクチベーター”が結合しておらず)、ラクトースも無ければ(”リプレッサー”も結合していれば)、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合できるわけもなく、転写がはじまることはない。

f:id:soilshop:20200814185331j:plain

①グルコース無し&ラクトース有り(転写促進)

f:id:soilshop:20200814185423j:plain

②グルコース有り&ラクトース有り(転写抑制)

f:id:soilshop:20200815085229j:plain

③グルコース無し&ラクトース無し(転写抑制)

f:id:soilshop:20200814185538j:plain

④グルコース有り&ラクトース無し(転写抑制)

f:id:soilshop:20200815230041j:plain

ラクトースオペロンの場合分け

【関連記事】

soilshop.hatenablog.com

soilshop.hatenablog.com

【補足】

  • ラクトース(乳糖。グルコースとガラクトースが結合した二糖類。哺乳類の乳汁に含まれる。乳児では、デンプンを分解するマルトースより、ラクトースを分解するラクターゼの活性が高い。)
  • アロラクトース(ラクトースの代謝産物で、ラクトースの異性体。ラクトース分解酵素のβガラクトシダーゼがラクトースを分解しつつ、一部のラクトースをアロラクトースに作り変える。)
  • 調節遺伝子(“調節タンパク質”の遺伝情報が書き込まれた“塩基配列”。)
  • 調節タンパク質(他の遺伝子の発現を調節するタンパク質。転写を抑制する場合は“リプレッサー”、転写を促進する場合は“アクチベーター”と呼ばれることもある。)
  • オペレーター(原核生物におけるDNAの転写調節に関わる“塩基配列”。調査タンパク質が結合することで、複数の遺伝子の発現を一括して抑制、または促進する。)
  • プロモーター(遺伝子の発現に先立って、RNAポリメラーゼが結合する“塩基配列”。プロモーターにRNAポリメラーゼが結合しなければ、mRNAが合成されず、遺伝子は発現しない。)
  • 構造遺伝子(mRNAに転写され、タンパク質に翻訳される塩基配列。ラクトースオペロンでは、lacZ、lacY、lacAの遺伝子群は“構造遺伝子”だけれど、プロモーターやオペレーターは“構造遺伝子”ではない。
  • lacZ(βガラクトシダーゼ、いわゆる“ラクターゼ”の遺伝子。βガラクトシダーゼは、ラクトースをガラクトースとグルコースに加水分解しつつ、一部をアロラクトースに作り変える。)
  • lacY(ラクトースを細胞内に取り込む膜タンパク質“ラクトース輸送体”の遺伝子。)
  • lacA(アセチルCoAからラクトースにアセチル基を付け替える“アセチル基転移酵素”の遺伝子。)
  • ガラクトシド(ラクトースなど、ガラクトースを構成要素として含む多糖類。結合の仕方によって、α-ガラクトシドとβ-ガラクトシドに分類される。)
  • オペロン(原核生物において、共通の調節タンパク質とオペレーターにより、一括して転写調節を受ける連続する複数の構造遺伝子。もしくは、プロモーター領域&オペレーター領域&複数の構造遺伝子のセット。原核生物にはイントロンが無いため、複数の構造遺伝子はまとめて1本のmRNAに転写される。)
  • エキソン(DNAからmRNA前駆体に”転写“され、さらにmRNAからタンパク質に”翻訳“される遺伝情報。)
  • イントロン(DNAからmRNA前駆体に”転写“されるものの、mRNAからタンパク質には”翻訳“されない遺伝情報。原核生物では見つかっていない。)
  • スプライシング(真核生物において、mRNA前駆体から”イントロン“を切り取り、”エキソン“だけを繋げてmRNAを作る手続き。)

【参考資料】

  • 吉里勝利(2018).『改訂 高等学校 生物基礎』.第一学習社
  • 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
  • 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
  • 浜島書店編集部(2018).『ニューステージ新生物図表』.浜島書店
  • 大森徹(2014).『大学入試の得点源 生物[要点]』.文英堂