SOILーSHOP生物教材製作所 / 自習室

高校生物の予習&復習&自習

【1】バクテリオファージ

“バクテリオファージ“(bacteriophage)は、バクテリア(bacteria=細菌=原核生物)に感染するウイルスで、ファージ(phage)は「食べる」の意味。例えば、食作用が旺盛で大型の白血球だと”マクロファージ”(Macrophage)となる。

さて、バクテリオファージにはT1〜T7の7種類がいて、高校生物の授業で学ぶハーシー&チェイス(1952年)の実験では、T2ファージが大活躍する。

f:id:soilshop:20210808225124g:plain

T2 vs E.coli

1952年 ハーシー&チェイスは、T2ファージと大腸菌(細菌=bacteria)を使って、遺伝子の本体がDNAであることを確かめた。

  1. T2ファージのDNAに含まれるP(リン)の一部と、殻(タンパク質)に含まれるS(硫黄)の一部を、それぞれの放射性同位体に置換する。
  2. 放射性同位体で標識したT2ファージを、大腸菌に感染させる。
  3. 大腸菌内で新たなT2ファージが増えた頃を見計らって遠心分離する。

もし、遺伝子の本体がDNAならば、T2ファージのDNAだけが大腸菌に侵入すればよいわけで、遠心分離によって重い大腸菌と一緒に沈殿するはず・・・。(仮説?)

はたして、結果は予想通りだった。

遠心分離の後、沈殿物にはT2ファージのDNAの成分であるP(の放射線同位体)が、上澄液にはT2ファージの殻(タンパク質)の成分であるS(の放射性同位体)が、それぞれ多く見つかった(放射線が検出された)のだった。

DNAとタンパク質の構成元素の違いや、ウイルスの増殖時間を利用し、顕微鏡でも見えない極小世界での出来事を間接的に推測することで、「遺伝子の本体がDNAであること」が裏付けられた。 

f:id:soilshop:20200428102614j:plain

バクテリオファージ

f:id:soilshop:20200428225728j:plain

大腸菌

【補足】

  • ウイルスだけでは増殖できず、生きた細胞に感染しないと増殖できない。
  • DNAの構成元素(C, H, O, N, P)
  • タンパク質の構成元素(C, H, O, N, S)
  • 放射性同位体(放射線を発することが“目印”になる。)
  • 遠心分離(密度の大きい物体ほど先に沈む。)
  • グリフィス(1928年)やエイブリー(1944年)の研究から、ハーシー&チェイスは「遺伝子の本体はタンパク質ではなく、たぶんDNAだろう?」くらいは分かっていたはず。
  • ハーシー&チェイス(1952年)の翌年には、ワトソン&クリック(1953年)がDNAの”二重らせん構造”を解明する。

【参考資料】

  • A. D. Hershey,  Martha Chase. (1952). Independent functions of viral protein and nucleic acid in growth of bacteriophage. J Gen Physiology 36(1), 39-56
  • 吉里勝利(2018).『改訂
  • 高等学校 生物基礎』.第一学習社
  • 浅島 誠(2019).『改訂 生物基礎』.東京書籍
  • 吉里勝利(2018).『スクエア最新図説生物neo』.第一学習社
  • 浜島書店編集部 編著(2019).『ニューステージ 新生物図表』.浜島書店